あるプロレスラーの妻が
「夫が(力持ちにも関わらず)引っ越しで重いものを持とうとしなかった。夫曰く『俺の力はこういうことに使うためにあるのではない』とほざいた」
と発言していたのを、何十年か前にテレビで見た。
私は夫(プロレスラー)の考えに賛成だ。
いくらプロレスラーとはいえ、引っ越し作業中に負傷する可能性は多分にある。
そうなると業務(試合とか)に影響する。自分の筋力は商売道具でもあり、所属する団体の所有物でもあるのだ。
当然、一人前のプロレスラーになる過程で文字通りの「血のにじむような努力」を重ねてきたことだろう。
そんな背景があって「あんた、たまたま力持ちだからタンスとか担いで」などと言われたところで拒否しない選択肢はないと考えるのが妥当なところだ。
SNSで散見される話題を一つ紹介する。
フリーランスの職人が知り合いから「無料でサービスして」という要求を受ける件についてだ。
例えば、イラストレーターが知り合いから
「ウチの会社のロゴをチャチャッと書いてほしい」
などと言われることが結構あるようだ。
もっと身近な例だと
町内会の夏祭りのチラシを(もちろん無償で)作ってほしい
という要求もあるとのこと。
私にはとても信じられない。
なぜそんなに「プロに」「気軽に」「無償作業してくれ」などとほざけるのか??
もちろん、頼む側の心理も推測はできる。
「好きで絵を描いているのだから造作もないでしょ?」
と無思考に近い短絡的な思い込みを抱きながらの無茶ぶり炸裂なのだろう。
プロのイラストレーターが一つの作品制作に着手し、完成するまでの道のりを想像できるだろうか?
・テーマ、コンセプトの決定
・下書き
・線の確定
・配色
・細部の描き込み
・仕上げ、最終調整
・確認、修正
などなどやることは山ほどあり、一つ一つの工程に短くない時間と、相応の手間がかかる。
寿司職人に「チャチャッとタダで握ってよ」などと頼めるだろうか?
食材は?その仕込みは?調理する場所は?
イラストレーターも作品制作には機材が必要だ。どういう神経があればタダでやってくれなどと言えるのだろうか…。
話の次元は低まるが、
私も似たような要求をされたことがある。
前職場が塾だったため、
「うちの子の勉強を見てよー」
と言われることが何度かあった。
私の正直は感情としては
「見るかボケ!」
だが、なぜそう思ってしまうのだろうか?
私が考えるに、
気軽に「うちの子の勉強見て」と要求してくる人間は
私の指導力への信頼
を抱えているわけではないからだ。
単純に
「無料で、ないよりはマシな感じの指導を何度か受ければワンチャン役立つんじゃね?」
程度の認識なのだ。
私が教室長時代に重視していたことは「生徒との戦略会議」だ。
志望校に合格するために必要なことを具体化していく。
言うは易しだが、これをできている塾は少なくとも同じ市内にはなかった。
お、出来そうな塾が秋田に進出してきな、というときもあったがその塾も鳴かず飛ばずだった。
特に、大学受験、高校生への指導が得意で、模試の結果と志望校の科目数・配点(大学受験は、その大学により科目数と配点が異なるため指導内容の流用が効きにくい)を照らし合わせ課題と実際の行動に落とし込んでいく。
一人一人との面談前にかける準備時間はとても短いといえるものではなかった。
そのかいあって前職最終年、塾生のなんと6割を高校生が占めるようになっていた。
個別指導塾、とくに秋田県という「高校受験で子どもたちが燃え尽きる地域」での高校生の塾生獲得は困難だ。
日々常に大学受験に関する勉強、勉強、だった。
その積み重ねが市場のニーズをつかんだと自負している。
高校受験(中学生)への対応も存分に行った。
高校受験は、指導内容の流用性が効く(全員同じ問題しか出題されないため)のでその辺の苦労は大学受験ほどではないが、
高校生相手と異なる点は「精神面のサポート」が挙げられる。
主な点は
・サボりをなくすための継続的なはたらきかけ
と
・学習内容の偏りを防ぐナビゲーション
だ。
精神的に未熟な中学生への対応は、高校生相手に比べ格段に難しい。
心理学者か?というほどの研究をかさね実践し検証し続けた生徒対応。
もちろん、試験内容の熟知は最低限の義務だ。そのあたりの学習もしっかり行っていたことは言うまでもない。
…何を言いたいかというと
この話を聞いた後でまだ
「うちの子の勉強見たってよータダで」
といえるか???
ということだ。
必死に培ってきたこの指導力を、どこの誰とも知らんヤツに無償提供できるはずねーだろーが!!このホンジナシが!!!なぼ事前準備に時間(ずがん)ど労力かがるど思ってらんだやっこ!!!!!
歌は別。
歌は趣味の範囲なので「今度夏祭りののど自慢参加者が少ないから出てよー」などと言われればヒマなら出る。むしろこの歌唱力を広く知らしめたい(ダメだこりゃ)。
以上、プロにタダでもの頼むようなやからとはすぐさま縁カットしましょう、というお話でした。