晩酌と相撲好きのブログ

毎日ビール2本程度の晩酌とおいしいつまみ、そして大好きな相撲を愛しているアラフォー妻子あり男の心の内です。たまに本業の教育分野に関することもつぶやいたり。暇つぶしに見てやってください

【前編】「合格後もウチの塾で頑張る意思があれば受け入れます」→入試直前入塾希望者「は?」

前職時代の事を思い出した。

上司からの意味不明な指示を今になってふと思い出した。




私は当時、個別指導塾の教室長をしていた。
個別指導塾というのは個人個人の授業内容がバラバラ。集団指導塾とはシステムが全くと言っていいほど異なる。


個別指導では生徒一人ひとりの力量や志望校、学校の進度などが考慮された一人別の内容で授業が進む。要は一人一人、授業内容がいちいち違うのだ。
あなたは志望校までの距離が遠い(やることがたくさんある)からガンガン速く進めるよ、とか、あなたは模試のデータで弱い単元だけ集中してやるよ、とか、
カリキュラムは千差万別。

 

全員今日はこの内容、来週はあの内容、というようにカリキュラムが受講者全員に対し完全固定されている集団指導とはシステムが異なり柔軟にカリキュラム設定ができる分、
個別指導では指導の成果に対する責任が、どの時期に入塾した生徒に対しても求められる。

だから集団塾で途中から入ってきた生徒に対しては「途中入塾だから、すでに授業で実施した内容についてはご自分で学習してください。」ということができるが、
個別指導塾に途中から入塾してきた生徒(の保護者)には「とにかく受験勉強すべてについて責任を持ちます」というスタンスを取らなければならない。


その分、個別指導塾の月謝は高い。ウチの塾は平均の月単価30,000円ほど。受験間近でもなんでもない学年においても、月々3万円を塾費用として払い続けられるご家庭はそう多くはないだろう。
そう。
個別指導塾とは、基本的には金持ち相手の商売なのだ。

が、しかし!

受験間近になって、具体的には中3生で年末(12月末)から年明け(1、2月)あたりに入ってくる生徒(のご家庭)は多くの場合お金持ちではない。
資金が有限なため、子どもへの投資時期を見計らっていて、そろそろ切羽詰まってきたため、しかたなく単価の高い=投資効果の高そうな指導形態に飛びついてくるのだ。

 

 

 

 

 

私は全国でナンバーワン教室長であったが、生徒数・売上のみならず、最上位高校合格者数も最多の教室を作り上げた。本社から表彰されたこともある(金一封なし!ボケが!)。
全国に多数ある個別指導塾の中で、私のような指導方針を掲げている塾はあまりないだろう。全国規模の塾なら皆無だろう。
では、私の掲げていた方針とはなにか?

 

それは、中3受験生に対して集団指導も行うこと、しかもその授業を強制する、ということだ。


個別指導塾なのに集団指導を行うの?そうだ。大学生講師にチンタラ授業をさせているだけでは生徒の成績は上がらないっていうか運ゲーとなってしまう。
狙って塾生全員の成績を上げる。そのためには一人別の状況把握が必要だ。個別指導塾なんだから一人別状況把握はやっているはずだろ?と思われるかもしれないが、
実はできないのだ。驚くべきことに、個別指導であるがゆえに一人別状況把握ができないのだ。これが世の個別指導塾の実際なのだ!

 

もう少し細かく言うと、
個別指導の場合、講師は全員大学生講師orアルバイト社会人。これは全国組織の個別指導塾であれば100%そうだ。
専属(社員)の個別指導講師は存在しない。なぜなら、個別指導は利益率が低い商品だからだ。講師に人件費をかけてしまえばたちまちつぶれてしまうのだ。
言い換えれば、個別指導という商品は単価が高いにも関わらず薄利多売をせねばならないということだ。


だから、生徒の成績を責任を持って管理できる人材が育たない。アルバイトという雇用形態である以上、自分の担当する授業が終わったらさっさと帰らざるを得ない。
これが世の個別指導塾の質を押し下げている要因となっている。

 

こういった内部事情を抱えている「全国にある個別指導塾たち」は、生徒一人別の状況把握が大の苦手だ。
なんせ、講師たちは基本的には授業が終わったらすぐに帰ってしまい、情報の共有ができないからだ。いや、そもそも講師たちは「共有する情報」すら持ち合わせていないことが多い。
講師たちは生徒の学習の様子に注視して授業を実施するわけでは、多くの場合はない。
生徒に注目しようが、注意散漫で授業をしようが、時給は同じだ。だったら楽な方を選ぼう。
これは講師が悪いのではなく、個別指導という商品の収益性の低さが悪いのだ。換言すれば、諸悪の根源は個別指導塾という砂上の楼閣を用いる商売を強いている会社の体質だということができる。

 

私はその体質に抗うため、個別指導でもなんとか生徒の成績を上げられるよう工夫を凝らした。その集大成が「集団指導もやる」だ。
当然、本社にバレたら即刻打ち切りさせられる。だから黙って行った。費用も、他の商品名義でご家庭から頂戴した(授業内容に比べ、かなり割安)。

 

なぜ集団指導が必要なのか?


それは「信頼できるデータが取れ」、「分析→改善が可能」だからだ。
個別指導は先に述べた通りに生徒一人ひとり授業内容が異なるため、当然、使用する教材も異なるし、同じ教材であってもその日に扱う箇所が違ってくる。
一律ではないデータも得られるが、その質は(講師の授業の質に比例し)低い。
一律の信頼できるデータと言えば、学校のテストくらいだ。それも通う中学校が異なれば内容も変わる。
だから、その時その時の生徒の一律で信頼できるデータが欲しい!私と一部の熱心な講師たちはいつも熱望していた。
そこで思いついたのが、「ウチで集団授業しちまえばいいんじゃね?」なのだ。

 

さらに、集団授業の冒頭で行う小テストでは、前回授業の内容が必ず出題されるが、
これで満点を取れなければ再テストをして、満点を取ることができるまで帰ることができない、というルールも作った。

簡単に言うが、このご時世、安全性の確保の問題からこういうことは、特に全国組織の塾ではできない。不可能だ。
でも私はこっそりやった。塾は成績を上げ、志望校に合格させなければ存在価値がないどころか詐欺(犯罪)集団になってしまう。
満点じゃなきゃ帰られませんよ制度は、意外にも保護者の方々からの支持が厚かった(生徒からは不評…)。

 

と、まあ、こんなことをやっていたのだが、
こんなことをやっていると途中から入ってくる中3受験生への対応が難しくなってくる。
前述のとおり、個別指導塾は高単価なゆえに高い指導効果を求められる。しかし、我々は集団指導も提供している。
この集団指導だけは最初から受けていただかないと指導効果を保証できない。

ある時から、私は受験の4か月ほど前(11月下旬くらい)から後の入塾はお断りすることにした。
上司にも報告した(即刻、しなきゃよかったと思ったが…)。すると上司は「ちゃんとお客様に(入塾を断る)理由を説明しろよ」と言ってきた。
むろん、そのつもりだ。が、上司はお断りの理由をムダに指定してきた。
「『受験が終わり高校入学後もウチで頑張るのであれば受け入れます』でいけ。」

 

 

後編へ続く

【後編】「合格後もウチの塾で頑張る意思があれば受け入れます」→入試直前入塾希望者「は?」