前職の学習塾勤務時代
ある日、我が部署にて「他塾調査」をすることになった。
同業他社のシステムや方針を調べたり内部の「人」に実際会って話してみたりして
各塾の特徴や攻略法を見出すのが目的だった。
地区内の塾をピックアップし社員それぞれの担当塾を決め、
実際に各塾に電話でアポを取り「客」として訪問し、実際に対面にてそこの塾のスタッフと話をする。
自分の子供の名前で予約するならまだしも、学齢期ではない子持ちやそもそも子供のいない社員の場合は親戚や仮想など子供をでっちあげなければならなかった。
そういった多少面倒な流れでもってこの他塾調査は進められた。行くのメンドかった…。
私が担当したものの一つに秋田県初進出の中堅規模の塾があった。
関東圏を中心に展開しており、北東北くんだりに出店など珍しい。
メンドい調査ではあったが、多少の興味を持ってその塾に(面談予約のための)電話した。
大手塾あるあるなのだが、飛び込みで面談に来る若い人はだいたい「他塾調査」だ。私も何度もそういった他塾調査と思しき人たちの対応を経験した。
自身の対応を振り返り、
他塾調査とまる分かりの人、言いかえれば商売敵へどうに接するのか?
その塾の度量をはかる基準になりうる。しかも大いになりうる。私はそう感じている。
私の塾のライバルは同業他社というよりは自分の会社の本社ということができた。
普段から同業他社に客を取られるということはあまりなかった。
むしろ本社から提示される数値目標(売上とか)の達成が一番きつかった。なので正直他塾のことなど考えている暇はなかった。
今現在十分に集客できている中、さらに無茶振りされる本社数値にどれだけ近づけるか?そういったくだらないことに振り回される日々だった。
そういった状況・立場だったので他塾調査が自分のところに来ても慌てたり嫌悪感を抱いたりといったこととは無縁だった。
むしろ「どうぞ心ゆくまでうちの塾を見ていってください。ご質問にもなんでもお答えしますよ」というスタンスだった。そして無駄に丁寧な接客を商売敵に施していた。
おそらく相手は驚愕しているか、もしくは「手の内をさらしおってバカめがヒッヒッヒ…」などと思っていたに違いない。
正直、手の内をさらしたところでそっくりそのまま真似できるとは思えないし、真似されたとて同じ効果を得られるとも思っていなかったので全くのノーダメージだ。
むしろ「あなた方にも早く力をつけていただきこの地区の塾を盛り上げていきましょう!」と半ば本気で思っていた。
そういった思想のもとの「クソ丁寧な対応」だった。
さて、くだんの秋田初出店の塾に訪問する日となった。業務時間内で済ませなければならず、しかも塾は夕方から夜にかけて仕事のピークとなるため日中の早い時間にアポを取る必要がある。しかも大体の塾は夕方近くから開きやがる。
私はその日、午後三時に予約を入れ訪問した。それほど大きな店舗ではなかったので塾に入った瞬間にスタッフがお出迎えしてくれた。大学の同級生だった。
その瞬間、その同級生は営業スマイルを消し、真顔に変わった。ずっと真顔のままだった。私の塾のホームページには私の名前が載っている。当然、事前に周辺塾の情報は確認していたことだろうし、同級生が塾で働いているなら目につくことは間違いない。私が他塾調査で訪問したとわかったのだろう。ってか分からなければちとまずいしね。
一応、面談の形は取ったが話は弾まなかった。私がいろいろ質問しても上の空だ。こちらの手の内を晒してなるものか!そういった強烈な意志をその態度から感じ取った。
私は以下の2つの点から「この塾はポシャる」と判断した。
それは
①敵に手の内を一切さらさないドケチ根性
②こいつは友人から一万円借りて返さずに卒業した(死)
だ。
要するにこの同級生の人間性がずば抜けてよろしくなかったのだ。
絶対につぶれる。私は確信した。
後の社内会議でもこの塾のことを報告したが、「この塾はつぶれます。以上。」といった感じだった。上司は「ふざけんな」といったがそれしか言いようがなかった。続けて上司は「(普段マジメな)お前がそういうんならそうなんだろうな」と言った。幸い(?)予言は的中した。ある日突然同級生が飛んだらしい。現在その塾の跡地には金券ショップが入っている。その物件には二度と塾は入居しないのではないか…。
訪問から数ヶ月ほどたち、その塾のチラシが手に入った。
昨年度の合格実績が載っていた。それによると
・慶応大学 40名
・MARCH 50名
・国立大医学部 10名…
などなど錚々たる実績だ。これはなんの数値なのだろう?
秋田県全体で見ても、慶応大学に合格する人数自体40名より少ないはずだ。なのにこの塾はこの店舗単体で慶応に40名も合格させた???
関東にある本社ほか全店舗合わせた数値なのだろうか?ってかそれしか考えられない。しかしチラシには「秋田教室の実績です」って書いてあるしな…。
この疑問を解明すべく、その同級生に電話して(そいつの電話番号知らんので塾に電話。)飲む約束をとりつけた。私一人だとつまらな死にするので同じく同級生二人ほどを誘い飲んだ。
そこで私はそいつにこの合格実績の疑問をぶつけた。江川の真っ直ぐである(体感160km)。
「あの合格実績って全国ぜんぶ合わせてのもの??」
すると「秋田だけのものだ」とのたまった。その時点でもう詰みだろ(そもそもその塾に40人も高校生が通っているはずがない小規模店舗)…。
何度聞いてもそれで押し通そうとするのでしかたなく普通に飲むことにした。
その飲みの日から程なくしてそいつの塾の合格実績は大幅に下方修正された。わかり易すぎるだろ…。
その数年後(数年はもったんだ…)、その同級生は突然無断欠勤をぶちかまし、程なくしてその塾は閉鎖された。ということを、その塾からウチの塾に移ってきたアルバイト学生から聞いた。
そうだよなと思った。だって学生時代ネズミ講に誘っておいてなんの謝罪もないんだぜ…。金も返さねーし(それは俺じゃないけど…)。
小学生や中学生・高校生という子どもたちを相手にする仕事に就いているからには子どもたちに言い訳のできないことはしない。これは鉄則だと私は思う。合格実績の水増しなどもってのほかだ。ってか、当時通っていた生徒さんたちはその合格実績を見てどう思っていたのだろう…。かわいそうだ。
慶応に40名という天文学的な数値を表明する時点である意味ギャグ路線を突き進もうとしたのであろうか?分からなすぎる…。
その中堅塾の経営陣が愚かだったと言わざるを得ないが、人材採用には慎重を期すべきと感じた出来事だった。あれ以来、その同級生の消息(しょうそこ)は当然、誰も知らない…。
以上、金返すこととねずみ講には誘わないことを学んだお話でした(そうだっけ?)。